IT業界の女性の働き方
IT業界では長年人材不足が叫ばれ、さらに顧客である事業会社・官公庁などの各業界でもDX推進が喫緊の課題となっています。ITに通じた人材は常に不足しており、既にITスキルを身につけている女性、またこれからIT分野への転身を目指す女性の活躍する余地は大変大きいと言えます。 2019年の労働力調査によると、全就業者のうち女性の比率は45%であるのに対し、情報サービス業においては25%と、建設業17%、運輸業・郵便業21.3%に次いで女性比率の低い産業となっており、まだまだ男性が多い業界であることがわかります。
IT業界はシステムトラブルの緊急対応や長年続くピラミッド型の業界構造により長時間労働になりやすく、男性中心の業界だったと言えます。しかし、2016年の「女性活躍推進法」の本格施行により、女性の職業生活における活躍の推進に各企業が取り組み始め、また2020年からの新型コロナウィルスの蔓延によりIT業界においても働き方改革が加速度的に進みました。IT業界は在宅勤務との親和性も高く導入も他業界より進んでおり、女性が働くのに適した業界であると言えるでしょう。ここでは、IT業界での女性の働き方についてご紹介します。
◆なぜIT業界に女性が少なかったのか
◆IT業界に女性が適している理由
◆女性の活躍を後押しするIT企業
◆まとめ
なぜIT業界に女性が少なかったのか
では今まではなぜIT業界に女性が少なかったのでしょうか。
女性の理系出身者が少なかった
IT業界においては文系出身者に比べるとITに必要な基礎教育を受けている理系出身者の採用が多い傾向にあり、以前は理系学部に進学する女性が少なかったため、IT業界に進む女性比率も低かったと言えます。
女性のロールモデルの不足
上記のようにIT業界で働く女性がそもそも少なかったため、模範となる女性のロールモデル、メンターが少なく、IT業界で女性が働くイメージがつかみにくかったと言えるでしょう。
長時間労働
IT業界が慢性的な人手不足状態であることに加え、突発的なトラブルの対応やプロジェクトの最終盤などは残業が多くなる傾向にあり、「IT業界=激務」というイメージが強くついており、女性エンジニアが働きやすい環境とは言えませんでした。
IT業界に女性が適している理由
上記のような理由があった中、なぜIT業界は女性が働くのにおすすめなのでしょうか。
将来的にもなくならない職業
AIの発達により将来はなくなってしまうだろうと言われている職業・職種がある中、IT業界は将来においても継続的に需要がある職業と言われています。男女に関わらず、「人生100年時代」、「一億総活躍社会」と言われている現代においては生涯で労働する年数も長くなることが予想され、安定した職業でキャリアを積むことは大変重要です。
手に職をつけられる
ITエンジニアの職種は多岐に渡りそれぞれ専門性が高く、自ら学び資格を取得したり、実務を通してスキルを身につけることで、IT業界で働き続けることができます。また未経験分野であっても、会社の研修制度などにより新しいスキルを習得することで、キャリアアップにつなげることができます。
男女差なく評価される
スキルを男女差なく評価されます。やる気さえあれば新しい仕事にチャレンジすることも可能で、経験を積むことでさらに新しいスキルを身につけ評価も上がります。給与の男女差はほとんど存在しないため、男女関係なく活躍できるのがIT業界です。
高い年収
先に述べた通りIT業界は常に人材不足で需要過多のため、比較的年収が高い傾向にあります。ある調査では、民間企業の会社員の平均年収が420万円のところ、IT業界の技術職は470~590万円と言われています。どのIT企業も優秀な人材を確保したい思いがあるため、年収を高く設定する傾向にあります。
復職・転職しやすい
女性は出産・育児・介護などで休職を余儀なくされることがありますが、IT業界は人材不足で即戦力を常に求めているため、ITスキルを身につけていることで復職や、ライフスタイルに合わせての転職もしやすい環境と言えます。
勤務時間・勤務場所の自由度が高い
エンジニアは求められている成果物を期限までに提出すればよいので、フレックス制度を用いて時間的制限を受けずに働くことができます。また、リモート制度を導入している企業では、地方在住やIUターンでも希望の仕事に就くことができます。
体力的にきつくない
ITエンジニアの仕事は基本的には机についてPC作業をすることになり、肉体労働はほぼありません。男性に比べると体力面で劣ってしまう女性でも、IT業界は働きやすい環境といえます。
研修制度が整っている
以前は理系出身者が多くをしめていたIT業界ですが、人材不足もあり現在では文系出身者も積極的に採用されており、研修制度も整っている企業が増えてきました。
女性の感性を生かせる職種
ITエンジニアには様々な職種がありますが、中でもWebデザイナーは全体の半分を女性がしめていると言われており、Webデザインスキル、HTMLやJavaScriptなどのコーディングスキルを習得して活躍している女性も多く存在します。また、ITプロジェクトの上流であるITコンサルタントやプロジェクトマネージャー、営業などでも女性の活躍が広がっています。
女性の活躍を後押しするIT企業
では、昨今のIT企業では、女性の活躍をどのように後押ししているのでしょうか。
NTTデータとPwCコンサルティングの例をご紹介します。
NTTデータ
データ通信やシステム構築事業を行う世界有数のIT企業である株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下 NTTデータ)は、経済産業省と東京証券取引所が共同で女性人材の活用に積極的な企業を投資家に紹介する取り組みである「なでしこ銘柄」に、2022年まで3年連続で選定されています。また、厚生労働省が次世代育成支援対策推進法に基づき認定する「くるみん」を2008年に初めて取得、その後も継続して認定され、2019年11月にはより高い水準での取り組みが評価され「プラチナくるみん」を取得しました。 これらは、NTTデータが2016年より5箇年計画で取り組み、2021年に全ての目標を達成した女性の活躍に関する行動計画の取り組みが評価されたものであり、2021年4月には新たに以下の行動計画を再策定し現在でも取り組みを継続中です。
・2025年度末まで継続して女性採用比率30%超を目指す
・2025年度末までに女性管理職比率10%を目指す
・2025年度末までに女性経営幹部数(役員、組織長など)15人以上を目指す
・2025年度末までに男性育児休職取得率30%を目指す
また、社員が安心して出産・育児等のライフイベントと仕事を両立しキャリアを継続できるよう、各種制度が整えられています。
・裁量労働制
毎月の労働時間を管理し、労働時間の超過が続くと裁量労働制ができなくなる仕組みを取り入れています。
・テレワーク制度
テレワーク制度やインフラ環境整備をすすめており、2020年度実績で社員の98%がテレワーク制度を利用しています。
・その他制度
介護休暇及び休職、介護のための短時間勤務、看護休暇など
・育児休職
子どもが満3歳まで取得可能
休職中も上司との定期的な面談を行い、復職後のポジションや仕事の進め方を相談可能。
2019年度実績で育児休職からの復帰率は98.8%。
・育児のための短時間勤務
子どもが小学校3年生の年度末まで取得可能
・企業内託児所
2011年12月に社員有志の発案により豊洲本社に開設
・ライフプラン休暇
不妊治療や配偶者のつわり・出産、育児などの理由で取得可能
PwC Japan グループ
世界4大コンサルティングファームである”Big 4”の一角を占めるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の日本法人であるPwC Japan グループでは、企業の事業戦略からIT改革のコンサルティングを担うPwCコンサルティングなどでIT分野に関わる女性社員が多数活躍しています。 女性職員の活躍、女性リーダーの輩出が組織の成長に不可欠であるとの考えから、 PwC Japanグループでは現状の分析やモニタリングを行い、施策を進めています。主な取り組みとしては、女性役員登用、若手女性育成のためのスポンサーシップ制度、メンタリング制度、女性リーダー向けコーチング、若手女性職員向けリーダーシップ研修、育児休職者向けの復職準備セミナーの開催などです。
また、女性職員に限らず全職員の意識、行動変革のための管理職向けダイバーシティマネジメント研修、内閣府男女共同参画局が掲げる女性活躍を推進するために男性リーダーが自ら取り組むことを表明する行動宣言への賛同など、全社をあげて取り組みがなされています。
その結果、グループ内のPwCコンサルティングが女性活躍推進の取り組みが優良な企業として厚生労働大臣より「えるぼし」認定を、合わせて「子育てサポート企業」として「くるみん認定」を他グループ会社でも取得、PwC Japanグループの全ての法人で取り組みを強化しています。
2020年6月末時点でのPwC Japanグループの女性職員比率は全体で35.2%、役職別ではシニアアソシエイト36.3%、マネージャー~ディレクター18.9%、パートナー7.9%となっています。
また以下の各種制度により、女性職員の活躍推進が後押しされています。
・リモートワーク
客先常駐することが多い業務特性に合わせて1990年代よりフリーアドレス制を導入。2020年4月からは新型コロナウイルス対策の一環としてリモートワークを原則とし、2021年5月時点で出社率30%未満を維持。
・コアなしフレックスタイム
・時短勤務(一日あたりの勤務時間の短縮)
・短日勤務(一週間あたりの勤務日数の短縮)
・ペーパーレスの推進
・介護特別休暇
・結婚特別休暇(同性婚の場合にも取得可)
・育児特別休暇
法人により、男女共に育児のための連続15営業日の休暇(有給)取得可
・保活コンシェルジュ
「保活」に有用な情報やノウハウの提供、心理的サポートなどを保活コンシェルジュから受けられるサービスを導入し、産休、育休からのスムーズな職場復帰を支援
・大手町事業所内託児所/提携保育園
・社外の保育施設との提携
まとめ
以上のように、大手IT企業を中心に、女性社員だけでなく男性社員にとっても働きやすい環境を整える取り組みが各企業で確実に進んでおり、女性のライフステージが変わっても働き続けやすい環境がIT業界には整いつつあります。
既にIT業界で働いている女性だけでなく、未経験でもITに関するスキルや知識を身につける意欲さえあれば、常に需要が見込まれるIT業界でキャリアを積んでいくことができるでしょう。